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それから10分後。


ようやくソフトクリームを買えた明彦がベンチに近づいて来た。


「ほら、ストラップもらったぞ」


明彦は嬉しそうにそう言い、青と赤のストラップを見せる。


確かに可愛いストラップだけれど、あたしの興味はすでになくなっていた。


ソフトクリーム屋の店員にばかりに目がいってしまう。


「どうして怒らなかったの?」


あたしの隣に座った明彦へ向けて、そう聞いた。


「は? 怒るって何を?」


キョトンとした表情を浮かべる明彦。


「さっき、割り込みがあったでしょ」


「あぁ。あれか。ちょっと怖そうな人だったよな」


明彦はそう言い頭をかく。


割り込みをしてきた男性本人に怒らなかったことを指摘されているのだと、勘違いしている。


「そうじゃなくて、ああいう割り込みって店員が注意するものしょ? 明彦は店員に怒ってもよかったのに」


「あぁ、そういう事か。でも、あの状況で店員を怒るのは違うんじゃないか? 1人で全部やってたし、あれだけ人が並んでたんだし」


明彦はそう言い、美味しそうにソフトクリームを食べる。