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「最近このへんのお店でクレーマーが増えてるんだって」


花梨がそんな事を言い出したのは、家が見えてきた時の事だった。


「そうなんだ?」


素知らぬ顔をしてあたしは聞き返す。


「うん。実は三村さんもオープン初日に若い女性客から随分怒鳴られたらしいよ」


「へぇ。ひどいね」


あたしは何の感情も込めずにそう言う。


三村へクレームを入れたのは間違いなくあたしだった。


だけど三村はそれが原因で辞めたワケでもなさそうだし、クレームが原因で辞める人間はただ弱いからだと思っていた。


クレームを入れられている最中だってお金になっているのだから、多少の事は我慢するべきだ。


「あたしたちはまだ働き始めてないけれど、そういう人が近くにいるかもしれないって事はちゃんと覚えておかないと、何かあった事に大変な目にあいそうだよね」


花梨が不安そうな顔でそう言った。


例えばクレームの対象が店員から自分に切り替わるとか?


心の中でそう聞いてみる。


果歩のようになりたくなければクレーマーの機嫌を損ねないことだよ。


あたしは更に心の中で花梨へ向けてそう言ったのだった。