美鈴は長曽我部さんの"所詮脇役"という言葉に打ちのめされ、脇役なんてここ数年なったことない美鈴には屈辱的で
「まぁ確かにスタジアムツアーの時に比べたら…」
と超前向きな考えに転換。
ま、なんでもいいけど。
そして30分間の歓談タイムも終わり、いよいよ友人スピーチ。
友人スピーチをするのは2人、美鈴は新郎側としてだから最初なんだと。
なんてしてたら、もう歓談タイムも終わり。
ほとんど食事に手をつけていない美鈴は顔が緊張してるけど、司会から名前を呼ばれ、テーブルに一礼し、立ち上がる瞬間チラッと見えた美鈴の手は
しっかりと長曽我部さんの手を握っていて、どこまでもつくづく美鈴のままだった。
長曽我部さんの手を離し、礼してマイクの前にたつ頃にはもうステージにたつ美鈴と同じ顔をしていた。
いわゆる、五十嵐美鈴と化していた。
『瑠樹さん、さゆりさん、ご両家ならびにご親族の皆様、本日は誠におめでとうございます。
本日はお招き頂き、ありがとうございます。
Aプロダクション所属、松野美鈴と申します。
瑠樹くんとは東京都立渋谷第一高校で出会い、クラスメイトとして仲良くしてもらっています。』
寝る時間を削って考えた原稿用紙3枚分。
それを全て暗記するところが、なんとも美鈴らしい。
余裕じゃん。
『僭越ではございますが、一言挨拶を述べさせていただきます。
瑠樹くん、とは呼んだことがありませんので、ここからはいつもと同じく、高橋と呼ばせてください。』
瑠樹に対してはあんなに冷めた顔をする美鈴が、本当に優しい表情をして、そう優しく優しく微笑みながら、スピーチが始まった。


