で、5分後
「長曽我部さん出ました。」
「……陽性ってこと?」
「ってことです。」
戻ってきた美鈴はさっきとは別人のように、隠しきれてない笑顔が溢れてしまっているほど。
「そっか、よかったな。」
そんな顔に、俺も自然と笑みがこぼれる。
本当に幸せそうな顔をしてるから。
「……あ、でも仕事…」
「いいよ。活動休止するか。」
「え、いいの?本当に?」
「当たり前だろ。
無理して、美鈴もお腹の子も危なくなったら、そっちのが嫌だしな。」
「……そっか、ありがと。」
「まだ本格的にライブも始動してないし、ファンにもなんの通達もしてないのがよかったな。
映画主題歌のレコーディングも終わらせといてよかった。
来年は秋までツアーもない。
とにかく、今はゆっくり休めよ。」
「……ありがと。
正直長曽我部さんになんて言われるか怖かったんだよね。
事務所にもどってみんなで相談するのかと思ってた。」
「……そうだな。
美鈴じゃなきゃ、一回持ち帰るかもな。
俺さ、仕事のことは美鈴も、貴也も隼也もみんな平等に見てるつもりなんだよ。
でも、妊娠となればそういうわけにもいかないだろ。
お前は、俺の大事な妹だからな。」
「……そっか。ありがと。」
そう微笑む美鈴の顔がなんか懐かしくて
そういえばこいつ、こんな顔して笑うんだったなって。
久しぶりに、こいつの本当の笑顔を見た気がする。
「飯、食えないだろ。」
「あー、うん。辛いかも。」
「レモン買ってきたし、柑橘系の飯作ってくるわ。」
「え、レモンっていいの?」
「試しに嗅いでみ?
きっとすっきりするよ。」
とレモンをひとつ差し出すと、そのレモンに美鈴は顔を近づけた。
「……確かに。」
「だろ?
ちょい待ってろ。ひとつ置いてくから、レモンの香りで気分転換でもしてろ。
それと、貴也にはちゃんと連絡しろよ?」
「うん、わかった。」


