……あの海か。
もうかなり前な記憶だな。
あれ、確かまだ美鈴がデビューした年の年末だったな…
「前、移っていい?」
「あぁ、いいよ。」
美鈴がエレベーターに乗り込むところを確認し、車を動かそうとしたとき
弘希がそう言って、後ろから助手席へと移ってきた。
「じゃあ行くから。」
シートベルトを絞め、俺は自宅へと車を走らせた。
「美鈴さ」
車を走らせてすぐ、弘希が口を開いた。
「ん?」
「なんか、すげー寂しそうだったよ。」
「なんで?」
「父さんが、もう美鈴の世話を辞めたから。」
……は?
「今は美鈴より、新しく入ったKOHARUってやつに期待してるからってさ。」
…あぁ、そういやさっき永田にそんなことを言ったか…
いやでもそれは美鈴と比べたわけじゃねーけど…
「美鈴が、私にはもうなにも言わないけど
今は小春ちゃんのためにって忙しそうで
とか言ってたけど。」
「まぁそりゃ新人だから仕方ねー話なんだけど」
「時代の変化なんてあっという間だよね
だってさ。」
……だから、別に俺は美鈴を捨てたわけじゃねーって…
「さっきも言ってたじゃん。
美鈴が、父さんのことはなにも知らないみたいなこと。
遠回しに仕事の関係でしかない、って。」
「…仕事の関係だけなら家につれてったりしねーのに」
「俺もそれは思ったけど。
でもさ、あいつ家族ってものに人一番憧れあるみたいだし、貴也も美鈴は父さんに見捨てられるのを一番怖がってるとも言ってたし
もっとちゃんと伝えてやった方がいいんじゃねーの?
今日の美鈴、俺の部屋にいた時は普通だったのに、それ以降全部別人みたいだったし。」
別人みたい、か…
「あんな俺にまで演技だってわかるような演技だったけど
それでも美鈴なりに努力してんだろ。
父さんに、母さんと仲良くしてるところを見せたくて。
なんか、今日の美鈴は痛々しかったわ。
全体的に無理してて。」
……やっぱ、無理してたのか。
そうだよな。
だって前まで里美とかなりギクシャクしてたし。
…って俺、いつの間にこんな鈍くなってたんだろ。
美鈴の変化にはいつだって俺が一番に気づいてたのに。


