つーことで、エレベーターで1人、2階まで降りて食堂のドアを開けた。
この時間にここで飯を食ってるやつもいるけど、この食堂も18時がラストオーダー。
ほとんどの人はこの時間に飯を食わないから、この食堂もこの時間にはがらがらなのに、今日はやけに騒がしくて
その原因を作ってるやつは俺を待ってるはずの美鈴だということに気づくのに、時間はかからなかった。
そんな美鈴に近づこうと食堂に足を踏み入れたけど
「永田さんになんと言われようとも
私は長曽我部さんの嫌なところなんて、見つけられないけどね。」
そういう美鈴の言葉に俺の足は自然と止まった。
「まぁ確かに、デビュー前のスケジュールはかなりきつかったよ。
長曽我部さんは反論さえできない空気を放つし、とにかく言われるがままやるしかなかった。
ご飯の時間も仕事の話で、買い物に出掛けても仕事の話。
いっつも仕事のことで厳しい。
それはわかるよ。
でもさ、間違ったことは言わないじゃん。
長曽我部さんはいつだって正しくて、それがむかつくのもわかるけど
それでも、長曽我部さんはいつも間違ったことは言わない。
そのことでむかつくなら、それは永田さんがまだ未熟だからでしょ?違う?
長曽我部さんのこと嫌いなのかとかどうでもいいけど、でも
長曽我部さんのやり方、私は嫌いじゃない。
だって長曽我部さんは頑張る人にしか頑張らせないから。」
永田が美鈴に何を言ったのかとか、どうしてそんな話題になったのかとか、どうしてここに二人がいるのかとか、
そんなことは考えたってわからないけど
……でも、ちゃんと俺のことをわかってくれていて
誰にたいしても嫌われ役をやってきたのに、嫌わないでついてきてくれるやつがここに一人いて
それだけで、なにかが俺を包み込むような、そんな何かを感じた。
「私は永田さんのこと嫌いじゃないけど
でも、いつも厳しい長曽我部さんも嫌いじゃない。
私を歌手にしたのは二人が頑張ってくれたから。
だからさ、永田さんもまた頑張んなよ。
そしたら長曽我部さんはきっともっともっと厳しくなって、嫌になるよ。」
そういう美鈴の顔は笑ってて
永田も、俺には見せない優しい顔をしていた。
「それにさ、長曽我部さんって遠慮ないから、本当に見込みない人はクビにすると思うんだよね。
なのに永田さんはまたマネージャーになったんでしょ?
なら十分期待されてんじゃん。
いつまでも長曽我部さんに噛みついてないで、素直に仕事してればいいのに。」
「……わかってるわ。」
わかってるわ。だって。
あの永田が。まじかよ。美鈴相手だとこんな素直なわけ?
「まじで、あの人を見返してやろうと思ってんだよ。」
「へー、それは楽しみだな。」


