「…やっぱ、やめるか?」
「……え?」
「顔が笑ってない。」
「あー…はは、
私ってあんまり笑う方でもないし」
「寂しかったからだろ?
……なら、今はどうなんだよ。」
「今は……
そりゃ嬉しいに決まってるじゃん。
だって、結婚することは
私の小さい頃からの夢だったから。
でも明日は名義変更しに
色々回らなきゃだなーって。
貴也は仕事で、長曽我部さんは里美さんで
明日はタクシーだなー、面倒だなー
って考えてただけだよ。
……面倒でも、早く変えたいから
明日一人で色々回るけどね。」
はは、と笑うと
貴也は無言のまま
車を止めた。
子供の頃からよく電車に乗り
一人で来てた海。
長曽我部さんを傷つけた日に
一人で来た海。
…和也が逮捕された
事件のあった海。
ここにはいい思い出が
全然ないよ。
「…手、貸して。」
「え?
……はい。」
差し出された貴也の左手に
私の右手を重ねた。
そして貴也が指を絡めてきたから
私も握り返すように、指を絡めた。
「…美鈴はやっぱ
長曽我部さんにそっくりだな。」
「え?」
「自分一人で解決しようとする。
……前も言ったけど
俺は役者だから、
どういうときにどういう顔をするのか
ちゃんとわかってるよ。
……だから俺は美鈴の気持ちは
美鈴の口から聞きたい。
本当はなに考えてた?」
そういう貴也の声色が
本当に優しくて
いつもはぶっきらぼうなくせに
こういうときだけ優しくて
…だけど、この演技でもなんでもない
本当の貴也の優しい部分が見れるのが
私だけなのがすごく嬉しくて
すぐに、私の口を開かせた。


