居場所をください。




「……はぁー、なんかもう

早く歌いたいよ。」


幸せすぎて、なんかもう

ため息がすっごい出るんだけど。


幸せ逃げるとか言うけど

これは完全に幸せおすそわけ状態。

どんどん溢れてくもん。


「なんかめっちゃラブソングとか

歌いたい気分。」


今なら最高の歌が歌えそうだよ。

本当に。


なんて思っていると、

キーボードの藤森さんから


「美鈴ちゃん!新曲新曲!」


という声がかかり……


「あぁ!新曲!

そうだ、新曲歌おうかな。」


私がそういっても

長曽我部さんはなにも言わないから

きっとOKってことだよね?


「あー、でもちょっとこのままじゃ歌えないから

佐藤さーん!ティッシュ!」


とにかく鼻水だけでも出して

ぐちゃぐちゃな涙を拭きたい。


「ちょっと持ってて?」


と、貴也にマイクを渡して

こちらにきた佐藤さんと後ろを向いた。


「ありがと。

……もしかしてこのあとのこと

長曽我部さん知ってた?」


と、ティッシュをとりながら

佐藤さんにこそっと聞いて

私は鼻を噛むことにした。


「いや、知らないよ。

だからこのあと、

次の曲いきまーすって感じで

カウント出せば

またベルが始まるから。

ん、ゴミ箱。」


「ありがと。

里美さんと弘希は何してる?」


と、今度は水を受け取った。


「今休憩してると思うけど。

なんで?呼ぶ?」


「うん。ステージ横でいいから。

椅子も用意してあげて。

少しは私の歌に興味持たせてやる。」


そういって水を一口飲んで

仕事モードに戻り、

私はまた客席に顔を向けた。


「宣伝だけは忘れないで。」


佐藤さんも、それだけ言って

袖へ掃けた。