居場所をください。




みんなの間をすり抜け

私はまた長曽我部さんと

ステージの下を目指す。


「カート乗るか?」


「ううん、いい。歩く。」


これも私を疲れさせないため。

でも私はみんなと一緒に歩いていたい。

長曽我部さんの手を掴んでいたい。


「長曽我部さん、今年も1年

いっぱいありがとね。」


「こちらこそ。」


「来年もよろしくね。」


「こちらこそ。」


それはあくまでも妹として。

歌手として、五十嵐美鈴としての

ありがとうは、まだとっておくよ。


「あ、そうだ。

第一幕下りたら着替えんところに

佐藤さん来るようにいっといて。」


「はいはい。

じゃあそこ座っとけ。マイク。」


「あ、ありがと。」


指定位置につき、

長曽我部さんからマイクを受け取って

椅子に座った。


長曽我部さんは腕時計で時間を確認し


「スタンバイOK。

時間なったら始めろ。」


そうまた指示をして

ピッチをポケットにしまった。


あと2分。

私はマイクを握りしめて

集中力を高めていた。