みんながいる真ん中を、
長曽我部さんの手を握って
ステージへ向かって歩いていく。
最初は人が多いから賑やかでも
すぐにまた静かになる。
花道の下を通り、
メインステージでみんなと別れ
私だけが会場真ん中にある
サブステージへと向かった。
暗くて、静かで、私のヒールだけが
コツコツと音をたてている。
「生中継があることは
告知してないんだよね?」
「してねーよ。」
「そっかぁ。
驚いてくれるといいけどなー。」
「驚くだろ。しかもテレビだしな。」
それにMCが嫌いだから
いつもアンコールまでは
一言もしゃべらないし
いつもと違う流れに
楽しんでくれるといいな。
「にしても、今日はあんま
緊張してるようには見えねーな?」
「してるよ。
足ガクガクだもん。歩くのが精いっぱい。」
…でも、でもね……
「そうだよなー。
小学生の頃とか、中学生の頃とか
音楽の時間、みんながいる中
一人ずつ歌を歌うのですら緊張するのに
美鈴は大勢の前で歌うんだもんなー」
今日、私にカメラを向けているのが
佐藤さんではなく、高橋だから
なんていうか…やっぱり仕事モードにはなれない。
なんでこいつがここにいるんだ?


