私は今日も静かな、くらい廊下を
長曽我部さんの腕に掴みながら
ヒールをコツコツと響かせて歩く。
この静寂な空気とその足音が
私の緊張を高めていく。
でも
「美鈴ちゃーん!」
そんな空気をぶち壊す柴犬が一匹。
「ハル、うるさいけど。
しかもまだここにいたの?」
「えー、美鈴ちゃんのこと
待ってたのにー。
俺も一緒に行こうかと思って!
今日話せなかったし~」
「なにそれ。
まぁいいけどね。行こ。」
開演まであと20分。
やっぱりまだ少し早いけど
私はみんなのところへと向かった。
「はは、やっぱりみんな早いね。」
ツアー最終日と同じ会場。
同じ場所に、みんながまた集まっていた。
「高橋お疲れ。」
「おう。」
そして、いつもなら片方に長曽我部さん
反対側に佐藤さんが立つけど
今日は佐藤さんのかわりに
高橋がその位置にいた。
「あ、カメラ貸して。
ちょっと見たい。」
「ほらよ。」
高橋から受け取ったカメラを見ると
"美鈴ちゃんだいすき!"
"今日はいっぱい笑って、いっぱい泣いて、
いっぱい騒ぐぞー!"
などなど、たくさんの笑顔が詰まっていた。
「…よし。」
顔をあげれば
円陣…ではないけれど
みんなで輪になっているから
みんなの顔を一通り見た。
たくさんのスタッフがいて、
バンドメンバー、ダンサー、
マネージャーたち。
そして、高橋と亜樹、それに
弘希と里美さんの姿も。


