居場所をください。




それから喋るのがきつくなってきたから

私は黙々と腹筋をしていたのだけれど


「俺の予想だけどな」


また、先生が話し始めた。


「九条は30手前か、過ぎた辺りに

この世界を引退する。」


「…え…そんなことまでわかるんですか」


もう私は声を絞り出したけど

まだなんとか腹筋しながら声が出た。


「それは別にいいんだけどな。

この先ずっと芸能界にいたい

って思ってるやつほど引退するんだよ。

逆に、五十嵐みたいな

芸能界でずっと生きていこうなんて考えてません

みたいなタイプは結局辞められない。

というより逃げられない。

そんなもんなんだよ。」


「………そうなんですかね」


「そんなもんなんだよ。

端からこんな世界に期待してないから

やめるタイミングがないんだよな。

やめるやつはこの世界に期待しかなくて

勝手に明るい未来を想像するから

現実とのギャップに嫌になって辞める。

思ったより人気が出なくてやめる。

他のこともやってみたくなる。

そうなるんだよ。


お前の彼氏なんかいい例だよな。

この世界しか知らないから

辞めたくても他になにもできないだろ。

だからここにいるしかない、みたいな。

俺ら大人はあいつの未来が

楽しみで仕方ないけど

あいつは自分の未来なんか

諦めてるって感じだよな。」


………貴也が、ね…

まぁそれはなんとなくわかる気が……


「五十嵐もそうなってるよ、すでに。」