居場所をください。




「きっと、どっかでレッスン

ずっと受けてきたんだろうな。

もうその癖がついてる。

それを今から取り除いて

俺のやり方にするには無理がある。

それが小学生ならできなくはないけど

あいつはもう17だ。

芸能人としては遅くはないスタートだけど

歌い方をやり直すには遅い。

それに比べて五十嵐は空っぽのまま

この世界に来た。

歌の世界についての知識が空っぽだから

俺のやり方でもすんなり受け入れて

どんどん伸びていった。

九条はもうすぐデビューなのに

今からやり直しなんてできない。」


「………それが、つまらない?

ってことですか?」


いまいちつまらないと繋がらない気が…


「正直、九条が受けてきたレッスンは

素人同然なんだよ。

変な癖がついてたとしても、プロとして

ちゃんとやっていける癖なら俺は伸ばせる。

だけどあんな地区のカラオケ大会程度の歌じゃ

どこまで伸びるかなんて想像できる。

だからつまんねーんだよ。

まぁ今は下手くそな歌手も多いし

それに比べたらうまいんだろうし、

若いやつにはたぶんウケるだろうな。

でも30歳を超えたら突然下がるだろうな。

五十嵐は澄んだ声なのに迫力もある。

30歳超えても甘い曲もクールな曲も歌えるだろうし

50歳超えても迫力もある歌が歌えるだろうよ。

お前は未知数だから。


俺は歌の上手い、下手で決めたりはしねーよ。

たとえ下手でも、ちゃんと自分持ってるやつには

俺はちゃんと教える。

下手でも、そいつらしさがちゃんと備わってれば

それを好きになるやつはたくさんいるから。

だけど、ああいう時代の歌い方をするやつは

もう未来が見えるんだよ。

だからつまらない。

今は五十嵐の伸び具合が面白すぎて

あんなやつはとても受ける気にはならない。」


………未来が見える、ねぇ…

なるほど………

この先どうなるのか、どこまで伸びるのか

何十年先もちゃんと見てくれてる、ってことか…