居場所をください。




「咲さんは撮影遅いのに

私たちに合わせて早く入ってくれたんだよね。」


「あぁ、そうだな。

栗山さんは午後からだもんな。」


本番前なのにのんきな私たち。

みんながいると緊張もしないし

楽しくて。


「こういうエキストラさんは

どういう人たちなの?」


「素人だったり、事務所所属してたり

その時によるけど俺らはよくわかんない。

ただ今回は緊張してる人とか

やけに興奮してる人が多いから

素人かな。」


「へぇー…」


確かに。やけにテンション高い人もいるし

こちらをやけに見てくる人もいるし

ガチガチな人もいる。


「ま、私も素人みたいなものだけど。」


「かなり余裕に見えるけど?」


私と貴也が話していると

隣に座る、彼氏役矢島くんが言う。


「さっきとは大違い。」


「だってさっきはあのシーンだし……

でも矢島くんのおかげで一発だったし

助かったよー。」


「だって五十嵐さん

がっちがちだったから。」


「………なんかあったわけ?」


と今度は私と矢島くんの会話に

貴也が入ってきた。


「大したことじゃないけど

力抜いてって小声で言ってくれただけ。

それがいつも通りの矢島くんで

なんか安心したの。」


「ふーん。」


貴也はやっぱ不機嫌。

だけどキスシーンで言えば

貴也の方が多いんだから

おあいこだよね。