「はい、じゃあ本番いきまーす」
監督からそんな声がかかり
私たちはぴったりと隣り合わせてくっついた。
「俺は松野くんからの視線が怖いよ。」
「え?」
「松野くんってさ、
結構嫉妬深いよね?」
そんなことを耳元で言うから
貴也の表情はいっそう怖くなった。
「矢島くんって、
もしかして小悪魔なところもある?」
「自分じゃわかんないよ。」
いや、でも今ちょっと
黒い羽が見えた気がしたよ?
そんな会話をしてたら
カウントダウンが始まり、やっとカメラが回る。
最初はただただ普通の会話。
宿題多いとか、あの先生が嫌いだとか。
ここらへんは超現実的。私でもあったよ。
その後は沈黙………からの、キス。
「力抜いて。」
すごく小さな声が聞こえてきて
私は目をつぶって、矢島くんの唇を感じた。
このままカメラが遠ざかってくから
これまた長い。8秒って。
「はい、OK!」
その声でようやく離れる唇。
「確認しまーす。」
い、今更顔が熱く………
「一発OKだといいね。」
矢島くんはいつもと変わらない顔で
優しくそういった。
「………そうだね。」
「はは、顔赤い。」
「仕方ないじゃん!」
やっぱ歌手の私には慣れないよ、これ。


