それから、私が思っていたより
ずっとずっと早くその瞬間は訪れた。
「うわー、綺麗。」
静かな雲海に光が射した瞬間だった。
その瞬間、歓声が富士山頂を包む。
みんな辛い思いしてここまできたから
その景色は感動ものだった。
「長曽我部さん、撮って撮って!」
「思いっきり逆光だけどな。」
太陽を背景に撮るのだから当たり前だ。
でもそれでもいい。
太陽はその後すぐに高く上がった。
あの瞬間は本当に一瞬だったけど
それだけで疲れが吹っ飛んだ気がした。
「また登りに来ようね。」
「そうだな。」
ほんと、ここにいると
私の悩みなんかちっぽけに感じる。
私がとても小さく感じる。
広い広いこの地球と大きな富士山、
私なんか本当にちっぽけだ。


