居場所をください。




メニューを見て、沖野さんはA御膳

私はハンバーグ定食を頼んだ。


「あの、ひとつ聞いていいですか?」


「なに?」


「"あなたが前に行けと言うから行ったのに

結局その仕打ちってひどいんじゃない?"

って歌詞、あれどういう意味ですか?」


「あぁ、あのときね、うちの事務所から

新しい歌手がデビューしたの。

あえて名前は言わないけどね。

その時に、私新曲発売予定だったんだけど

私って発売する度に一位でしょ?

MVもかなり力を入れてるし。

私の新曲発売と、その子のデビューシングル発売が

かぶっちゃいそうだったから、

私の発売を遅らせろと言ってきたの。社長が。

私はもうCD自主制作だし、事務所の力とか

ほとんど借りてないからさ。

CDも自分のタイミングで作って、発売してた。

それでも事務所にはきっちりお金が入る。

私はあそこの商品だから。

私はずっとそうやって貢献してきたのに

新しい子のために私が犠牲になるなんて

そんなの嫌だったの。

その気持ちを詰め込んだ感じかな。だから

"新しい時代のために今が古くなるのは

仕方のないことなのかな"なの。」


「……沖野さんでも、そういう悩みはあるんですね。」


「てっぺんをとっちゃうと

今度はそれを失うのが怖くなるんだ。

私はまだまだここにいたい。


でもね、今はそういう事務所の圧力も

怖くなくなったんだ。」


「どうしてですか?」


「テレビに出るのをやめて、

演じることもやめて、

新しい子がどんどん入ってきても

変わらず応援してくれる人たちがいるから。

だから私はもう一番じゃなくていいんだ。

私の時代はもう終わり。」


「え?」