初めて歩く、他の事務所。
ここの事務所も、Aプロと
変わらないくらい大手、というより
赤字経営だったのを
沖野さんが一人で黒字まで立て直したとか。
まぁ噂でしかないんだけど……
「美鈴、あそこ…」
長曽我部さんに言われ、視線を追うと、
そこにはもうすぐ映画で共演する
矢島将太くん。
「ここの事務所なんだ。」
「あぁ。目合ったら
会釈くらいはしとけよ?」
「うん。」
歩きながらこそこそと話していると
廊下の向こう側にいた矢島くんと
だいぶ近くなっていて
向こうもこっちに気づいて
微笑んで会釈してくれたから
こっちも微笑んで会釈した。
それにしても……
「イケメン。」
「本物は一段とかっこいいな。」
ありゃ売れるわ。
うん、女の子から人気出るよ。
「そういえば将太とは
映画で共演されるんですよね?」
矢島くんとすれ違ったあと
一緒に歩いているスタッフさんに聞かれた。
「はい。」
「いいやつですけど、
少し人がよすぎる所があったりしますが
よろしくお願いしますね。」
「いえ、こちらこそ。」
人がよすぎるって。
どんだけいい人なの。


