「でもさー、悔いは残るよ。」
「なんで?」
「だって沖野さんのステージ
私も立ちたいもん。」
「勝てば立てるじゃん。」
「勝つとか負けるとか意識して
歌手やってるわけじゃないもん。」
「でも、俺はいつも通り
全力でやるよ。」
「そんなの、私だってそうだよ。
負けるために手を抜くわけじゃないよ。」
「勝つ気がないだけか。」
「そ。
私が歌手やめて夏音が満足なら
それでいいよ。」
「自己犠牲な生き方だな。」
「犠牲になんかしてないよ。
自分のやりたいことを
自分で選択してるだけ。
歌手だって、夏音だって大事。
どちらを犠牲にするなら
って考えただけ。」
「もし勝ったらどうすんの?」
「どうしようか。」
「無計画だな。」
「長曽我部さんが勝手に引き受けたんでしょうが。」
「でもさ、美鈴。
俺はお前に勝ってほしいけどな。」
「なんで?」
「歌手とあの友達を天秤にかけたら
お前は友達をとるかもしれないけど
でも今まで応援してくれてたファンたちはどうなる?
今までお前のために動いてた俺や佐藤はどうなる?
お前はここで貴也が帰ってくるのを
ずっと待ってるんじゃなかったのか?
そういうの全てを引っくるめても
友達のためにお前は敗けを選択するのか?」


