「じゃあ、やーくそくっ!」


指切りのリズムに似たような、でもどこかオリジナルめいたリズムで、引っ張った頬を上下に動かした水無月くんがパッと手を離すと、タイミングよくチャイムが鳴った。


「約束したからね、忘れないでよ!」


言い返す暇もなく、水無月くんは素早い動きで自分の席に戻っていく。
私は呆然とそれを見送りながら、引っ張られた頬にそっと指先を添えた。

全く痛くはないのだが、ここは嘘でも痛い痛いと騒いで、たまには水無月くんを困らせてやればよかったかと、ほんの少し後悔の念がよぎる。
いつだって、困らせられるのは私の方で、引っ張り回されて散々な目にあうのも私なのだから。

まだほんのりと残る水無月くんの温かさに手を添えてため息をつくと、窓の向こうに視線を向ける。
今にも雨が降りだしそうな重たい灰色の雲のおかげで、校舎全体が薄暗くじめっとしている気がする。
やはり、これのどこが“いい朝”なのかと思わずにはいられない。

まあ、気持ちよく晴れ渡った日よりは、幽霊が出そうな気配はしているけれど。