玄関に入るなり稀美果は壁に押し付けられ真っ直ぐ直寿に見つめられる。

もうそこには怒りに満ちた表情(かお)の直寿ではなく。心配や不安、まるで迷子になった子供の様な瞳をした直寿だった。



「…何かされたか?」



稀美果は首を振り「大丈夫だよ」と言うと直寿は「良かった…」と稀美果を抱きしめた。



その後ちゃんと話をしようとリビングのソファーに座った。



稀美果がお弁当を届けに職員室に行った時、女子生徒からお弁当を受け取っていた所を見た事や放送部の子が、三井先生に食事に誘われて顔を赤くしている直寿を見たって事を聞いた事を話すと直寿は頭を抱えてた。



「まず、三井先生の事だが食事に誘われた事は事実だ。 結婚している事は職員にも言っていなかったから、今まで何度か誘われていた。 だから今日はっきりと結婚しているから誤解を招くような事は出来ないと言った…」


「それから弁当の事だけど…テスト週間に入ってすぐいつも手作り弁当を食べているのに手作り弁当を食べていない俺を見て、彼女達に作ってくると言われた。勿論、断っていたんだがしつこくてな…テストの結果が良かったら食べて欲しいと言われて、仕方なく承諾したんだ。稀美果には悪い事した。ごめんな」直寿は眉を下げ謝る。



稀美果は大きな溜息をひとつ付いて話しだす。



「三井先生の事は、結婚を黙っていたし直寿が格好良いから言い寄られても仕方ない。 ちゃんと断ってくれたならそれで良い。 でも、お弁当の事は許せない! 成績が良かったら何でもしてあげるみたいじゃない! 直寿は先生でしよ!! 生徒皆んなに平等じゃないとダメなんじゃないの!? 女子生徒皆んなから言われたらどうするの? 成績が良かったらデートして欲しいって言われたらデートするの?」



直寿はしょんぼりと項垂れ大きな体を小さくして反省していた。