稀美果も思い出していた。


まだ中学生だった私に話し掛けてきた人は茶髪で背が高くて世間で言うイケメン。私は今まで知らないタイプの人だったから少し警戒をしていた。
でも話をすると楽しくてその人からは優しさが伝わってきた。そして私は好意を持ち始めていた。
暫くしてその人がその場を離れようとした時なぜだか寂しさが込み上げて涙が溢れそうになった。すると彼は『また今度ね!』と微笑んで私の頭をポンポンてしてくれた。

あの人が直寿……

あの時の彼は眼鏡は掛けていなかった。髪の色も今と違った…
でも……いつも私の頭をポンポンてしくれたり頭を撫でてくれる直寿の手は初めから心地よかった。

それは私が直寿の手を知って居たからなんだ…


「そして一昨年のパーティーの時星蘭華学園の経営が苦しくその孫娘と建設会社の爺との間に結婚の話が出てるらしいと聞いて驚いたよ。しかもその孫娘があの時の女の娘だったから尚更な… 俺は冗談じゃない。と、親父に星蘭華学園とうちの学園との提携話を進めてもらった。稀美果の笑顔を俺の物にしたくてね…それからは今までの自分を改め女遊びも辞めた。」

直寿は不安と苦痛の表情のまま更に話を続ける。

「野田優香の父親が務める銀行はうちのメインバンクでね。星蘭華学園の融資もそこに頼んだんだ。多分彼女は俺達の結婚の話を父親から聞いたんだろうな?… 先週彼女から電話があって『会って欲しい』と言われたが断ったら学校まで押しかけて来たんだ。『食事に付き合ってくれるだけで良いから』って言われて… 学校の前で話していると生徒達の眼もあるから仕方なく彼女の車に乗った。ホテルのレストランで食事して二度と来ないでくれって話したから彼女は分かってくれたと思っていたんだが… まさか稀美果に会いに来るとは思わなかったよ。ごめんな嫌な思いさせて…でも分かって欲しい俺は稀美果を誰よりも愛してるって事を!」