「いえ、お礼など私に出来る事をしたまでです。父もこちらの教育方針には見習う所があると申してますし、日頃から学園長の事は教育者の鏡だと申しております。父もお力になれて喜んでおります。」

「ありがとう。ところで稀美果との事なんだが…」

「はい、その件ですが…」


直寿は机の上に用紙を広げた。
それは初めて直寿に会った夜に署名をした婚姻用紙だった。


「え? 直寿、それ出して無かったの?」

「稀美果のハンを勝手に押せないだろ? それに稀美果の気持ちを無視する訳にはいかないからね。」


直寿…


「じゃー私達まだ夫婦じゃなかったの?」

「あぁ銀行を納得させる為に用意していたものだ。」

「でも、もう必要なくなったのよ。せっかくイケメンの息子が出来ると思っていたのに残念だわ?」と母はとても残念がっている。

「えっ? 必要なくなったってどういう事? 私、直寿と結婚する! このままこの用紙にハンを押します!!」

「稀美果、本気なのか? お前はまだ高校生だぞ? 学園の事も心配無くなったんだ。もし融資の話がダメになったとしても稀美果を政略結婚など本気でさせるわけ無いだろ!?」

「私は本気よ! だって私直寿を好きになったんだもん! 愛してる離れたくない!!」

「円城寺さん今回の学園の事は抜きに、稀美果さんを私に頂けませんか? お願いします。」


直寿は深く頭を下げた。