興奮さめやらぬ尚樹は車に乗ってもサインをもらった色紙とスマホの写真画像を見て顔をほころばせながら『マジ嬉しい』と言い続けていた。


「クロリン、連れて来てくれるなら前もって教えてくれればユニホーム用意して来たのに…」


確かに尚樹は名古屋に行くという事でグランパスの選手に会えるかもしれないからユニホームを着て行こうかと言っていた。


「でも尚樹良かったじゃんクロリンが色紙まで用意してくれてたお陰でサイン貰えたんだよ?感謝しなよ!」

「勿論感謝してる。キスしたいぐらいだよ」と尚樹は言うと直寿に向って口を尖らせチュッと音を立てた。すると直寿は『尚樹、お前そっちのけあるのか!?』と顔を強張らせた。

「っなわけ無いじゃん!女が好きに決まってるだろ!!」と尚樹は真面目な顔で言っていた。


後部座席の私達はお腹を抱え眼には涙を貯め爆笑していた。
いつの間にか直寿が『尚樹』と呼ぶようになっていた。

あの放送事故で勘違いした尚樹に家まで送ってもらった時にはまさか直寿が『尚樹』と親しみを込めて呼ぶなんて思いもしなかった。

そんなちょっとした事だけど私は嬉しかった。



夕方から水族館に入ると日が落ちるに連れて明るいイメ-ジだった水族館が、神秘的な空間に変わっていった。

人気のイルカショーも以前見た昼間とは違う雰囲気のショ-でとても素敵。


「素敵だったね?」

「ああ。夜の水族館も良いな?」と稀美果と直寿は微笑み合っていた。


碧と直樹が居ることを忘れて直寿と二人の世界に入っている所を碧と直樹は見逃して居なかった事を後で知ることになるとは……私は思っても居なかった。