「――んだけど、知らなかったのかよ?」

「ああ、知らなかった」

「結構有名だと思うけど?」



そう言われても、クラスちがうやつは知らないほうが多いと思う。

クラスがちがうくせに、細かいところまで知っている翼が、情報通なだけだ。



「まあ、ゆずちゃんもあの容姿じゃん? だから“男好き”とかっていううわさは、いまも信じてる女の子はいるみたい」

「……なんだよそれ」

「ほら、見てみろよ」

「え?」



「あれ」と言って翼が指さした窓の外を、席を立ち上がって見てみる。

すると2階のこの教室から、中庭の隅で女子が固まっているのが見えた。


あの中心にいるのは……もしかして、高梨さんだよな?



「行かなくていいの?」

「言われなくても、行くに決まってる」



そう翼に返して、俺は急いで教室を出て行った。