「“あぁ、そういう事だったんだ。私は十夜に自分の手で護りたいと思って貰える程愛されてはなかった”。
それに気付いた瞬間、何て言うのかな……全ての感情が一気に押し寄せてきて一斉に弾け飛んだ」
「……っ、遥香さん……」
「最後に残ったのは“凛音ちゃんには敵わない”っていう想いと“十夜の幸せ”だけだった」
「………」
静寂の中。
儚げな微笑みが静かに溶け込み、長い睫毛がそっと伏せられる。
固く結ばれたピンク色の唇を見て、なんて強い人なんだろうと思った。
もしあたしが遥香さんの立場だったとしたら、あたしは遥香さんみたいに物分かりよく二人を認められるだろうか。
好きで好きで仕方無かった人を諦められるだろうか。
──答えはNOだ。
今のあたしには無理。
十夜を諦める事なんて絶対に出来ない。
だからこそ凄いと思う。
相手の幸せを心から願えるこの人が。
心の底から願えるその心の強さが、本当に凄いと思った。
「凛音ちゃん、十夜と付き合ってた事隠しててごめんね。私が全部悪いの。私が別れる時に十夜に言わないでって約束したから。十夜はそれを守ってくれただけなの」
「約束……?」
そっと離された遥香さんの右手。
それは元の位置へと戻っていき、再び強く握り締められた。
それと同時に遥香さんの表情も少し強張る。


