「ねぇ凛音ちゃん、私が一番羨ましいと思った事教えてあげる」
「羨ましい?」
「そう。これを聞いて、あぁ、私は女として愛されてなかったんだなって思ったの」
まるで何かを吹っ切れたかの様な笑顔を浮かべた遥香さん。
ゆっくりと首を傾げるその姿からは最初の刺々しい雰囲気など微塵も残っていない。
「私、十夜と付き合ってた時鳳皇に出入りしてなかったの。偽りの期間を含めた一年間、此処へ来たのは片手で余る程。
来たと言ってもお忍びだったから下の人達に紹介される事もなかった」
「………」
そう言えばこれも充くんが言ってた。
遥香さんが鳳皇へ来る事は無かったって。
そして、二人が付き合っている事は公表されていなかったって。
確かにそう言ってた。
「その事は聞いています。でもそれは遥香さんを危険な目に合わせない為だって……」
遥香さんは愛されていなかったと思ってるみたいだけど、愛していなかったらそんな扱いしないと思う。
「……そうね。十夜はそれを口癖の様に言っていた。けど、それは恋人としてじゃなく家族として言ったんだと思う」
「家族……?」
ポツリと落としたあたしのその言葉にフッと吐息を零す遥香さん。
遥香さんは一度天井を見上げた後憂いを帯びた瞳であたしを見つめ、再び口を開いた。
「私ね、十夜に聞いたの。“傍に置いたら狙われる。危ないって事ぐらい十夜も分かってるでしょう?それなのに何で凛音ちゃんを傍に置くの?”って」


