「……え?」
何も、無かった?
乾いた笑みと共に落とされたその言葉に、一層深くなった眉間の皺。
「“偽りの期間”が終わって“本物の恋人”になったら、今までとは違って少しは“恋人”らしくなるのかと思ってた」
「………」
「でもね、違ったの。
“手を繋ぐ”。私達はそこ止まりだった」
手を、繋ぐ……。
「私達は幼馴染。頻繁に手を繋ぐ事は無かったけど、それでも私の中では“手を繋ぐ”という事は当たり前の事だった」
「………」
再び膝元へと視線を落とした遥香さんにあたしは何の言葉も掛けてあげられなかった。
だって、遥香さんの言いたい事が分かるから。
遥香さんと十夜の関係を自分に置き換えてみれば、それはあたしと獅鷹幹部のみんなみたいなものだ。
小さい頃から一緒にいる。
それは手を繋ぐ事は然り、一緒に寝たりお風呂に入ったり。
実の兄弟と何ら変わりは無い。
遥香さんが言いたいのはきっとそういう事だろう。
遥香さんは恋人として十夜の“特別”になりたかったんだ。
「別にキスをしたりする事だけが恋人じゃないって分かってたし、十夜なりに恋人らしくしようと努力してくれてたのも分かってた」
「………」
「けど、十夜の中では私はまだ“女”じゃなかった。それを凛音ちゃん、貴女が現れて分かったの」
「……え?」
「ううん、違う。最初から分かってた。分かってたけど更に思い知る事になった」


