「私は自分の欲を傷心の十夜にぶつけた。私しかいないという事をこれでもかと言う程強調して十夜を縛り付けた。
今はただの“家族愛”でもいい。いつかは“本物の愛”になる。そう信じて、ううん、思い込んでいたから」
「………」
口元でギュッと握り締められた手。
それは何を語っているのだろうか。
十夜に付け込んだという事への後悔?
それとも十夜への愛情の表れ?
どちらかもしれないし、どちらでもないのかもしれない。
けれど、一つだけ分かった事があった。
それは遥香さんの十夜への愛情の深さ。
遥香さんは十夜を手に入れたいが為にその判断を下し、十夜へ訴えかけた。
その行為が良かったのかどうかはあたしには分からない。
けれど、あたしが遥香さんの立場だったとしたら、もしかすると同じ決断を下していたかもしれない。
「酷い女だよね」
「遥香さ──」
「だから後で痛い目見たのかな」
「え?」
痛い目?
フッと弱々しく笑みを零した遥香さんに疑問が湧き上がる。
「初めに聞いたじゃない?“恋人ってどこからが恋人だと思う?”って」
「……はい」
確かに聞かれた。
あれが?
「何も無かったのよ。恋人らしい事なんか一つも無かった」


