遥香さんの表情はまるでその時の十夜を再現しているかの様に苦しげに歪められていて。
その表情にどうしようもなく胸が苦しくなった。
「……お爺様はね、そんな十夜の表情を見ても何も言わなかったの」
「え？」
「冷めた目で一瞥しただけで十夜に何の言葉も掛けなかった」
「そんな……」
「その時十夜は決意したんだと思う。一人で生きていく事を」
「……っ」
「お爺様はその後、十夜に対して何の援助もしなかった。引き取る事も生活費も何もかも。まるで十夜が存在していないかの様に扱った」
「ひど、」
「十夜には母方のご両親がいたんだけど、お婆様はお爺様の介護をしていてね。お婆様自身も身体が丈夫じゃなかったの。
うちのお父さんはそれを知っていたから『十夜はうちで預かります』って申し出た」
煌の言ってた意味がやっと解った気がした。
“アイツ、遥の親に世話になってんだよ。家に来たら顔見せねぇとって思うんだろ”
煌の言う通りだ。
十夜からすれば遥香さんのご両親は恩人とも言える人達。
自分を引き取ってくれたかけがえの無い人達だったんだ。
「でもね、十夜は家から離れようとはしなかった」
「え？」
「凛音ちゃん、十夜ってね、ご両親が亡くなる前は陽くんみたいに表情豊かなやんちゃな子供だったのよ」
「え！？」
と、十夜が陽みたいなやんちゃ！？
「ふふっ。想像出来ないでしょ？十夜のお母さんがね、明るい人だったの。太陽みたいな人だった。いつも笑ってて、叔父様と十夜を心から愛してた」
「………」
「十夜にとって二人は唯一無二の存在だったわ。そんな人達が急に居なくなってしまった。感情を表に出さなくなってしまったのは仕方の無い事かもしれない」
