「十夜のお父さんは物凄く悩んだって言ってた。自分は蒼井家の跡取り。AOIグループを継がなければいけない。
けど、どうしても十夜のお母さんだけは手放せなかった。お母さんの事を心から愛していたから」
心から、愛して……。
「十夜のお母さんも言ってた。『悩んでる彼を見てると苦しくて、彼の為に身を引こう思った』って」
「身を引こうと?」
その言葉に“ある感情”が胸中に蘇った。
十夜から、鳳皇から去ろうとした時の“あの感情”が。
鮮明過ぎる程鮮明に蘇って、胸が鷲掴みされたかの様に苦しくなっていく。
「でも、お母さんがお父さんから離れる事はなかった」
「え……?」
落とした視線を上げれば、遥香さんの哀しげな瞳とぶつかった。
「十夜のお父さんの兄弟、つまり、私のお父さん達が二人を説得したの」
「お父さん、達?」
「そう。私のお父さんは四人兄弟の三男でね、長男である十夜のお父さんと三つしか違わないの」
「三つ……?」
それって計算おかしくない?遥香さんの言う通りだとしたら上の子供三人が年子って事になる。
「私のお父さんのお母さん、つまりお婆様は後妻なの。長男である十夜のお父さんが前妻の子供で、次男から下三人が後妻であるお婆様の子供」
……後妻。
「ついでに言うと、お婆様はお爺様と結婚した時連れ子がいた。それが次男。 だから、十夜のお父さんと次男である叔父様は血が繋がってないって事になるわ」
ち、血が繋がっていない?ヤバい。ややこしくなってきた。
複雑な家庭事情に整理しきれず、脳内がプチパニックを起こす。


