あたしの中にはもう“遠慮”という言葉は存在しなかった。
箍が外れ、次々と襲ってくる言葉の波。
その波に口が止まる事はない。
「あたしは十夜と別れるつもりはありません。十夜と約束したんです。“ずっと一緒にいる”って」
ずっとずっと一緒にいるって。
もう離れないと誓い合った。
あたしはもう十夜と離れる気はない。
「だから、遥香さんには負けるつもりありません!」
遥香さんが十夜を諦めないというのなら、あたしはそれに立ち向かうまでだ。
グッと拳を強く握り締め、遥香さんの瞳を真っ直ぐ見据えて決意を露にする。
遥香さんもまたあたしの目を揺らぎ無い瞳で見据えていた。
「……そう。じゃあこの先十夜と離れないって誓えるの?」
「誓えます!」
「何があっても?」
「はい。ずっと十夜の傍にいます」
互いに譲る事のなく繰り広げられるその攻防。
それは次の言葉によって呆気なく終焉を迎えた。
「良かった。凛音ちゃんの本心が聞けて」
「………へ?」
まるで今までの口論が嘘だったかの様にヘラッと頬を緩めた遥香さん。
その変貌ぶりに思わず口から素頓狂な声が飛び出した。
「えっ?えっ?」
どういう事!?
慌てるあたしに反して遥香さんはスッキリ、とでも言う様にニコニコと笑っていて。
その笑顔からはつい今まで放たれていた敵意など全く感じられない。
「ごめんね、意地悪な事言って。凛音ちゃんの本心が聞きたくてわざと意地悪な事言ったの」
「え?わざと?」
余りの変わり様に開いた口が塞がらない。
え?一体どういう事?
一変した状況に頭が混乱してついていかない。


