あたしだけ。
あたしだけが知らなかった。
何故あたしにだけ教えてくれなかったのか、その理由が知りたい。
「凛音」
震える拳をギュッと強く握り締めた時、耳に届いたのは十夜の声。
その呼び掛けに振り向けば、悲痛な面持ちをした十夜と目が合った。
シン、と静まり返った室内。
それが余計に緊張感を高めた。
握った手にじんわりと手汗が滲む。
「凛音……」
コクリ、と喉を鳴らした時と同時に動いた十夜の唇。
「お前に黙っていたのは“D”が獅鷹と鳳皇を仲違いさせた原因だからだ」
「……え?“D”が獅鷹と鳳皇を仲違いさせた原因?」
十夜から告げられた驚きの新事実に動揺が隠せない。
だって、“D”が敵対していた原因だったなんて想像すらしていなかったから。
「それは……」
「優音、俺が今日獅鷹で話したかった事はこの事だ。俺達は凛音に“全て”話す事を決めた」
今日?獅鷹で?
ってもしかして今日、優音が貴兄に呼ばれたのって十夜達が来るから?
「なんで……」
優音が訝しげな瞳で十夜を見据える。
“なんで”
その問い掛けに十夜は目を伏せ、黙り込んだ。
それを見て更に表情を曇らせる優音。
優音だけじゃない。そんな意味有りげな顔をされたらあたしだって何かあるんじゃないのかと勘繰ってしまう。
「……十夜?」
「凛音、この事について──っ、」
十夜が言葉を発した丁度その時、室内に響いたのは聞きなれた着信音。
その着信音は十夜のもので、ジーパンのポケットのでも入れているのかすぐ近くで鳴っているのが分かった。
「──悪ぃ」
一言断って電話に出た十夜。
「……何?」
一言二言喋った後、十夜の顔色が一変したのをあたしは見逃さなかった。


