「奴等はあたし達を置いて去ろうとしたの。だから優音が聞いた。“何故俺等を捕らえない?このまま逃がすつもりか?”って」
「そしたら奴等は言ったんだよ。“お前達を捕らえるつもりは最初からない。まだこっちの準備が出来てないからな”って」
「あたし達を捕らえたのは何故このアジトが分かったのか知りたかっただけみたい。でも、それさえも最後には“どうでもいい”って言ってた」
まだ小一時間程しか経っていない出来事を交互に喋るあたしと優音。
結構前の事の様に感じるのは気のせいだろうか。
ふと思い出したのは、あの時のシンの言葉。
“お前等が今からすべき事は一つ。帰って“D”を逃がしましたって報告する事だ”
まさか本当に報告する事になるとは思わなかった。
「……結果的にあたしは“D”を逃がしてしまった。連絡もまともに出来ず、奴等を捕まえる事も出来なかった。……ごめんなさい」
シンの言う通りにするのは凄くムカツクけれど、“D”を逃がした事には変わりない。
その事については皆に謝らなければいけないんだ。
あたしは一度だけじゃなく二度も逃がしてしまったのだから。
自分に腹が立って腹が立って仕方無い。
「凛音顔上げろ。優音もだ。奴等が逃げたのはお前等のせいじゃない。それに、俺等は奴等よりもお前等が無事に帰って来てくれて良かったと思ってる」
「十夜……」
頭にポンッと乗せられた手。
それは頭上で数回跳ねた後、グイッと優しく引き寄せた。


