「……チヒロ?奴が偽名?」
「そう。本名は智広と書いて“チヒロ”って読むんだって」
「チヒロ……」
「その時チヒロは言ったの。“騙すつもりで充に近付いた”って」
「騙すつもりで近付いた?それじゃあ……」
あたしの言葉に遥香さんがゴクリと喉を鳴らす。
そんな遥香さんにあたしも小さく頷き、続けた。
「充くんはチヒロに利用されていただけです。
チヒロはこうも言ってた。“中田に手を貸したあの抗争の前から充に近付いていた”。そして、“中田が失敗した時の為の保険”だとも」
「抗争の前から近付いていた?失敗した時の保険?」
「マジかよ。奴等はそこまで考えていたっていうのか?」
信じらんねぇ、と零す陽といつになく真剣な表情の彼方。
流石の十夜もこの事実には驚きを隠せないのか顔を顰めていた。
遥香さんに至っては「良かった…」と言って胸を撫で下ろしている。
どうやら安心させてあげる事が出来たみたいだ。
良かった。
「あたし達が驚いた事がまだもう一つあるの」
「……もう一つ?」
「そう。あたし達は奴等から逃げてきた訳じゃない」
「は?」
「逃がしてくれたの。奴等が」
「はぁぁぁぁぁ!?奴等が逃がした!?」
さっきから驚きっぱなしの陽。
「え?どういう事?」と隣にいる壱さんに助けを求めているところを見るとどうやら陽は話を理解出来ていないらしい。
まぁ、詳しく説明していないから仕方無いけど。


