「帰って来てくれて、良かった」
「……っ」
「もう、隠し事はしない。遥香の事もDの事も……俺の事も。全部話すから。だから……聞いてくれるか?」
「……っ、うん、」
聞く。聞くよ。
十夜が話してくれるのなら、全部聞く。
十夜の事、知りたいから。
全部、知りたいから。
だから聞くよ。
例えそれがあたしにとってツライ事だったとしても、あたしは十夜の全てを受け入れると決めたんだ。
だから。
「十夜の事、教えて。全部知りたい。十夜の事、全部知りたい」
遥香さんみたいに十夜の事を知り尽くすのは長い年月が掛かりそうだけど。
それでも、少しずつ十夜の事を知っていけたらいいなと思う。
「凛音……」
あたしの言葉に少しだけ頬を綻ばせた十夜は被せていた手を移動させると、そっとあたしの左頬を包み込んだ。
「十夜……」
少しずつ縮まる十夜との距離。
──キスされる。
そう思ったあたしはギュッと強く両目を瞑った。
「………」
──けど、待てど暮らせどその気配はない。
あ、れ?もしかして違った?
そう思いながら目を開ければすぐ目の前には何故か顔を逸らしている十夜がいて。
「とぉ──」
「悪い。こんな状況でする事じゃねぇよな」
そう言った後、十夜は体勢を整え、お風呂場の方へと歩き出した。
タイルの上へあたしを下ろし、「着替え持ってくる」と言って踵を返した十夜。
「待って!」
直ぐ様腕を引いて呼び止めると、
「すぐ戻る」
振り返った十夜はクシャリとあたしの頭を撫でて部屋を出ていった。


