「十夜──」
「俺が」
「……っ」
「俺がちゃんと話していれば……俺が全部話していればお前がこんな目に合う事はなかった」
「十夜……」
「俺の、せいで……」
小刻みに震えている十夜の声。
その声が耳に届いた瞬間、胸の奥底から何とも言い表しがたい感情がじわりと込み上げてきた。
堪らずそっと十夜の肩に手を置くと触れた肩がピクリと動き、回された腕にグッと力が籠る。
「十夜の、せいじゃないよ。勝手に突っ走ったあたしが悪いの。だから、ね。顔、上げて?」
肩を揺らしながらそう告げると、十夜は少し間を置いて身体を起こし、あたしの名前を口にした。
ぶつかる視線。
真っ直ぐあたしを見つめるその瞳は相変わらず濁っていなくて。
トクンと一つ、心臓が小さく音を立てる。
ユラユラと揺れている黒い双眸は声と同様、哀しげに揺らめいていて。
気付けばあたしは肩に置いていた手を十夜の頬へと持っていっていた。
その手に十夜の右手がそっと被さる。
「……その突っ走る原因を作ったのは俺だ。俺が早く話していればお前が不安になる事も此処を出て行く事もなかった」
「十夜……」
「……怪我させて、ごめん」
「………」
「助けに行けなくてごめんな」
数センチ先で紡がれる謝罪の言葉に胸がどうしようもなく締め付けられて。
口を開けたら絶対泣く。
そう思ったあたしは返事の代わりにフルフルと首を横に振った。


