……っ、ここ……。
手を離した丁度その時、ユラユラと揺れていた振動がピタリと止まった。
ゆるりと顔を上げれば目の前には脱衣所の扉があって、それを見て漸く十夜の意図に気付いた。
……十夜、足洗おうとしてたんだ。
その事に気付いた時にはもう十夜は扉を開けて脱衣所の中へと入っていて。
パタン、と扉の閉まる音が聞こえた瞬間、あたしは十夜の腕の中に閉じ込められていた。
「……っ、とぉ、や……?」
突然の出来事に戸惑い、固まる。
息が詰まる程強く抱き締められた身体は当然動く事が出来ず、唯一動かさせる両腕はどうしたらいいのか分からず宙ぶらりんのまま停止していた。
「……っ、」
小さく息を吐き出せば回された腕の力がぎゅっと強まり、更に密着度が増す。
その後、ゆっくりと後退していった十夜の身体は閉まったばかりの扉に優しく受け止められた。
それによって十夜との間に出来た僅かな隙間。
その隙間を埋める様に俯いた十夜はあたしの腹部に頭を埋めにきた。
腹部に掛かる微かな重み。
それが自棄にリアルで。
どう対処していいのか分からず、ただジッとしている事しか出来ない。
「とぉ──」
「悪かった」
やっとの思いで吐き出した言葉は十夜の小さな声と重なり、その言葉にもう一度「十夜?」と呼び掛ると、何故か今度は返事がない。


