「十夜!」
何の抵抗も出来ないまま抱き抱えられ、離さないと言わんばかりに腰に腕を回される。
「ちょ……十夜どこ行くの!?」
あたしを抱えたままスタスタと歩いていく十夜にそう問い掛けてみれば、
「待ってろ」
十夜が発したのはあたしへの返事ではなく煌達へ向けた言葉で。
分かった、という煌の返事を聞いた後、再び歩き始める十夜。
その後はずっと無言が続き、まるであたしの言葉など聞いてなかったかの様に歩みを進めていた。
真っ直ぐ前を向いたまま此方をチラリとも見ようとしない十夜に、あたしは何も発する事が出来ない。
……十夜は今、何を思ってる?何を考えてる?
さっきはあんな風に言ってくれたけど、本当は突っ走って“D”と接触してしまった事を怒っているのかもしれない。
それともこんな姿になったあたしを見て呆れてる……?
考えられるのはそのどちらかしかない。
だって、その他の理由なんて思い付かないから。
こんなにも近くにいるのに。
目と鼻の先程の距離にいるのに。
抱き上げられた時から一度も十夜と目が合っていないなんて、そんなのあたしを避けているとしか思えないじゃない。
回された腕はこんなにも優しくて温かいのに。
こんなにも優しくて力強いのに心だけは凄く遠く感じて。
目を合わせてくれないという事がこんなにも哀しい。
哀しくて。
寂しくて。
泣きそうで。
気付けば十夜の肩に置いていた手をそっと離している自分がいた。


