「は?ったりめぇだろうが!何遠慮してんだよバーカ!」
「バッ……!」
馬鹿って言わないでよ!あたしなりに色々考えてるのに!
「──凛音」
「……っ、」
煌に睨みを利かせながら口を尖らせていると、不意に呼ばれた自分の名前。
導かれる様に左方へ視線を滑らすと、あたしを見つめる真っ直ぐな瞳と目が合った。
遥香さんに言われ、あたしからすぐに手を離した十夜。
十夜は手を離した後も近くに居てくれて、あたしをずっと見ていてくれていた。
それが嬉しくて。物凄く嬉しくて。
胸がきゅうと締め付けられる様に苦しくなる。
「お前の居場所は此処だ」
「……っ、とぉ──」
「来い」
スッと差し出された右手。
少し戸惑ったけれど、いつもと変わらない真っ直ぐな瞳に囚われて、気付けばそっと右手を伸ばしていた。
……あぁ、やっぱり十夜が好きだ。
どうしようもなく。
大好きな温もりに触れた瞬間心の中で感じたのは、十夜への変わらない想い。
遥香さんが近くに居てもいい。
そう思える程胸一杯に“好き”という感情が広がって。
「十夜……」
この手をずっと離したくないと思った。
「十夜──」
指先が触れたと思うと直ぐ様握り締められ、握り返す暇もなく十夜の手によって引っ張られる。
まるでスローモーションの様に前へと傾いていく身体。
反射的に足を踏み出すと、自分の汚れた両足が視界に入った。
「……っ、十夜駄目!あたし足汚いから!」
この足で歩けばふかふかのカーペットが汚れてしまう。
瞬間的にそう思ったあたしは引かれた手を思いっきり自分の方へと引っ張った。
けれど。
「ちょ……!十夜!?」
引いたのはほんの一瞬だけで。
次の瞬間には十夜に抱き上げられていた。


