「私、凛音ちゃんが出ていってしまった時から一階の部屋にいるから」
「えっ!?」
一階?
「なんで……」
「それが此処にいる条件なの」
「条、件?」
意味が解らない。
条件って、何……?
「私がこの部屋に来たのは凛音ちゃんが帰ってきたって聞いたからなの。凛音ちゃんに話したい事があったから」
「話したい事……?」
それってもしかして十夜の事?
「いいかな?」
「………」
遥香さんの方からわざわざ来てくれたのにそれを断る事なんか出来なくて。
だから、「はい」と一言だけ返事をした。
すると、「良かった」と優しく微笑んでくれた遥香さん。
その笑顔にまた胸が鈍く疼いた。
「話は俺等の後にして貰ってもいいか?」
「え?あ……」
そうだった。
あたし、十夜達に問い掛けたままだったんだ。
煌の言葉に今の状況を思い出し、キュッと下唇を噛み締めて皆を見据える。
「玄関先でする話じゃねぇだろ。まぁ中へ入れよ」
そう言って顎で部屋の中へ入る様促す煌。
けれど。
「オイ、凛音?」
あたしはそこから一歩も動かなかった。
ううん、動けなかった。
だってあたしは、自分の勝手な都合で飛び出したんだ。
そんなあたしが部屋の中へ入るだなんて、そんな事簡単に出来る訳がない。
「凛音?」
俯いたあたしを不思議に思ったのか、訝しげに顔を覗き込みにきた陽。
陽の手があたしの右手に触れた瞬間、
「……あたし、中に入ってもいいの?」
口から零れ落ちたのはそんな言葉だった。


