「……馬鹿が。しねぇ訳ねぇだろ」


ぎゅっと頭を引き寄せられて、もっと十夜の心臓の音が近くなる。


トクトクトク……。


この音はあたしの為に奏でられている。


そう思ったら嬉しくて。



「十夜、大好き」



普段なら恥ずかしくて出来ない事も、こんなに簡単に出来てしまう。



「……もっとしろよ」



あたしからしたキスは、触れるだけのライトキス。

要望通り、もう一回ちゅっとキスをして、その後はいつも十夜がしてくれるみたいに顔中にキスを降らせた。



「くすぐってぇ」

「え、くすぐったい?気持ち良くない?」

「……気持ち良くないってお前、」

「ん?」



フイッと顔を逸らした十夜に首を傾げれば、また頭を胸に押し付けられて、次の瞬間にはお互いの位置が入れ替わていた。


「くすぐったい」


十夜のサラサラの前髪が目にかかってくすぐったい。

指先でそれをそっと避ければ、前髪で隠れていた漆黒の瞳が現れて。

その瞳と目が合った瞬間、一瞬息が止まった。



さっきまで笑っていたのがまるで嘘のような真剣な瞳。

馬鹿なあたしでもこの後どうなるのか予想出来た。


ゆっくりと近付いてくる十夜の頬に右手を添えて、左腕を首に巻き付ける。そうすれば、グンと距離が近付いて、あとは唇が触れるだけ。


けど、そこは意地悪な十夜が顔を出して、数センチ先で止まったままあたしを焦らした。


触れる吐息にまた鼓動が速くなって、喉奥でゴクリと音が鳴る。


そんなあたしを見透かしたかの様に口端を持ち上げた十夜は、



「──お前以上に大事なものなんてない」



そう小さく囁いた後、そっとあたしに口づけた。