わざわざ“俺”の存在を教える必要はない。


女だと思われている以上、手荒なマネはされないだろうから。


それに、“凛音”が捕まった事によって“本物の凛音”に目が向かなくなる。


もし凛音が見つかっても別人だと思い、スルーされるだろう。


特に今の凛音は“凛音”でもなく“リン”でもない。


見つかっても問題はないだろう。


けど、俺がヤバい。


今はまだ凛音だと思われているからいいけど、男だとバレたらどうなるか分からない。


だから、何とか凛音に知らせなければ。


そう思い、わざと大声を出した。


結果、今に至る。






「──一緒に来て貰おうか」


無言を貫く俺を見て埒が明かないと思ったのか、そう言ってアジトへと促すスパイ男。


男は俺の両脇にいる男達に目で合図すると、赤髪と一緒にビルの中へと入っていった。


……チッ、仕方ねぇ。行くしかねぇか。


二人の後ろ姿を見てビルへ入る覚悟を決めた俺は歩き出す前に凛音がいるビルへと目を向けた。


……良かった。気付いてたか。


ビルの入り口で此方を見ている凛音を捉え、心中で安堵の溜め息を零す。


気付いてなかったらシャレになんねぇからな。


けど、安心してはいられねぇ。


俺を見ている凛音は今にもビルから飛び出しそうな表情(カオ)をしていたから。


凛音の事だ。俺を助けようとしているに違いない。


けど、今此処で“本物”に出てこられたら困る。


凛音の身が危ないというのもあるし、何より今すぐ貴兄達を呼んできて貰わないと俺がどうなるか分からない。だから合図を送った。


『貴兄と桐谷を呼びに行け』と。


そして、『奴等に見つかる前に此処から逃げろ』と。


俺だけならまだ良い。


けど、凛音だけは駄目だ。危ない目には合わせられない。