彼方が殴られたって事は直ぐに分かったけど、殴った人は隠れてて見えなくて。彼方が離れたところで漸くその人物が分かった。


「十夜ばっかズルい!」


思いっきり後頭部を叩かれて、ちょっぴり涙目の彼方サン。


いつもならあたしも「変態彼方!」と言って文句の一つでも言ってるけど、今の一発を見たらそんな気も失せてしまった。

余りにも痛そうだから、よしよしと頭を撫でて慰めてあげる。







「凛音ちゃん、それじゃまた彼方殴られちゃうよ?」

「……っ、壱さん!」



クスクスと控えめな笑みを零しながらやってきたのは、あたしの心のオアシス壱さんで。

目の前に座った壱さんは、笑みを深めながらあたしの頭をポンポンと優しく撫でてくれた。


「凛音ちゃん、おかえり」

「壱さ……っ」

「凛音ちゃん泣かないでよ。凛音ちゃんに泣かれたら俺まで十夜に殴られちゃうよ」

「……っ」

「ふふ。嘘だよ。我慢しないで。凛音ちゃんの為ならいくら殴られてもいいよ」



いくら殴られてもいいって……。


壱さんのドM発言が面白すぎて、思わず笑みが零れる。
そんなあたしを、壱さんは怒るどころか同じように笑い返してくれた。



溢れんばかりの笑顔を見て思った。やっぱり壱さんと居ると癒されるなぁって。


壱さんの笑顔を見るだけで心がほっこりするっていうか、優しい気持ちになれる。


例えるなら、可愛い動物を見てるような……って、こんな事言ったら怒られちゃうか。


「凛音ちゃん?どうしたの?」

「う、ううん、何でもないよ」


きょとんとする壱さんに慌てて首を振った時、



「優音……っ、遊大!!」



彼方達の後ろに、あたしを見つめている優音と遊大が居る事に気付いた。