…………え?
一瞬何が起きたのか分からなかった。
今の今までシンの足を掴んでいた筈なのに何故か今は身体が宙に浮いていて、
視線の先には切望していた十夜の姿があった。
「凛音!!」
……十夜?
今までに見た事がない程必死な表情であたしに手を伸ばしてくる十夜を見て不思議に思った。
だって、もう少しで触れられるのに、何でそんな絶望した顔をしているのか分からない。
……あぁ、そっか。
シンに蹴られたからだ。
だからそんなに必死に走ってるんだね。
そんなに心配しなくての大丈夫だよ。
こんなの何ともない。
十夜の怪我に比べたら全然痛くないんだから。
だから、早くあたしの元へ来てよ。
その大好きな声で“凛音”って呼んで。
力一杯抱き締めて。
ねぇ……
「とお、や……」
「凛音ーーーーーー!!」
十夜に伸ばした筈の手は握られる事なくふわりと空を斬って視界の端へと消えていく。
あ……
視界に映るのは、愛しい十夜の姿ではなく今のあたしにピッタリなくすんだ灰色の空。
それを見て漸く自分の置かれている状況に気が付いた。
「とお──」
──その最後の言葉は、十夜にどころか海に吸い込まれて自分の耳にも届かなかった。


