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「大人しくしてろ」
車から下ろされてまず初めに目に入ったのは、一目見ただけで工場だと分かる簡素な造りの建物だった。
その建物は夏の初めにbreadとの抗争で行ったあの工場と形状がよく似ていて、横に長い。
その工場から少し視線を逸らせば、横一列に連なった真っ白なヨットが見えた。
その隙間から覗いているのは緑青色の海。
という事は、此処はあのビルから見えていた海なのだろうか。
そう言えば、連れ去られる時、十夜に向かって“港で待ってる”って言っていたような気がする。
うん、絶対にそうだ。車に乗せられてそんなに経ってないから間違いない。
「下ろしてよ!!」
取り敢えず抵抗してみるけれど、期待なんかしていない。
だってコイツは平気で人を轢くような人間だ。
自分の欲の為なら平気で人を傷付ける。他人の意見なんて聞く訳がない。
「下ろせ!!」
そう分かっていても抵抗したくなるんだ。
最低な人間だからこそ余計に。
「うるせぇ!!大人しくしてろって言っただろうが!!」
叫び声と同時にふくらはぎに食い込む爪。
「……っ」
その痛みに触発されて怒りが弾けた。
「大人しくなんか出来る訳ないでしょ!?アンタ、十夜に何したか分かってんの!?」
忘れたなんて言わせない。
十夜をあんな目に合わせたコイツを絶対に許さない!!


