「………」
「けど、無理だった。ずっと片思いしていた女の子が凛音ちゃんだと知って、余計に凛音ちゃんへの想いが深くなってしまった」
「……っ」
「十夜、言ってたわ。凛音ちゃんと出逢った頃、複雑な気持ちだったって。自分が求めているのはあの時の“女の子”なのに、出逢ったばかりの凛音ちゃんの事が気になって仕方ないって。
恋愛初心者の十夜には理解出来ない感情だったのよ。二人の女の子同時に惹かれるという事が。
けど、凛音ちゃんと関わっていく内に、十夜の中でリンくんよりも凛音ちゃんへの気持ちの方が大きくなっていった」
「………」
もう、相槌さえも打てなかった。
あたしの知らない所で十夜がこんなにも悩んでくれてたなんて知らなくて。
今まで見てきた十夜の顔が、走馬灯の様に走り抜けていく。
「だから十夜は凛音ちゃんを迎えに行ったの。
リンくんが凛音ちゃんだという事を知ってるのは自分だけ。獅鷹は怪我した事すら知らない。だから絶対に凛音ちゃんに知られる事はない」
「………」
「……そう思ってたけど、やっぱり心のどこかで不安が残ってたんだと思う」
「……え?」
不安が残ってた……?
フッと意味深な笑みを零した遥香さんに疑問が浮かぶ。
「獅鷹総長と凛音ちゃんが兄妹だと知って、揺らいだ」
「……っ」
「凛音ちゃんがずっと悩んでいた事、それに対しての謝罪。……そして、お兄さんに言われた“お前等と一緒に居ると苦しむかもしれない”という言葉。それが不安定だった十夜の心に突き刺さった」
「………」
「あの時の十夜はどうする事が正解なのか分からなかった。だから何も言えなかったし、去って行く凛音ちゃんを引き止めなかった」


