「凛音ちゃん、前にも少し言ったと思うけど、十夜は凛音ちゃんとの事で沢山悩んでた。
特に悩んでたのは、凛音ちゃんがお兄さんに連れて行かれた時と、獅鷹総長と兄妹だと知った時」
「……っ」
遥香さんが言ってるのは、中田との抗争で貴兄と優音が迎えに来た時と、公園で兄妹だと暴露した時の事。
その時どう思っていたかは、マンションの非常階段で十夜から直接聞いた。
あの日の事を思い出すだけで胸が熱くなる。
十夜と想いが通じ合った特別な日だから。
「凛音ちゃんが“リン”くんだって事に気付いたのは、お兄さんに連れて行かれた日だった。
十夜は凛音ちゃんの喧嘩する姿を見て、あの時の女の子だって気付いた」
──そうだ。
鳳皇の前で喧嘩したのはあの日が初めてだった。
鳳皇メンバーは“リン”の事を知らなかったけど、十夜は知っていた。だから“リン”だと気付いたんだ。
「十夜はどうするべきか悩んでたわ。
凛音ちゃんが獅鷹と関係してる事を知った時、直ぐに遊大くんの件を思い出したから。
遊大くんの事を想って一人で乗り込んで来るという事は、凛音ちゃんは獅鷹幹部と深い関わりがあるという事。
それに気付いたからすぐに迎えに行けなかった」
「………」
「十夜はリンくんが女だって事は幹部にも話してなかったの。
幹部達が獅鷹の事を恨んでるのも分かってたし、凛音ちゃんの事を大切に思ってるのも分かってた。
だから、凛音ちゃんが獅鷹に居ると分かってても幹部達には言えなかった」
……そう、だったんだ。
だから鳳皇はすぐにあたしを見つけられなかったんだ。
あの時十夜が幹部達に話していたら、あたしはすぐに連れ戻されていた。


