十夜の彼女。
それは、遥香さんにとって特別なもの。
望んで望んで……自分からは捨てられなかったもの。
「でもね、私はこれで良かったと思ってるの。好きな人が出来たって聞いた時は哀しかったけど、その反面物凄く嬉しかったんだ。
だって、十夜が家族以外に愛せる人を見つけたんだもの」
「遥香さん……」
ふふっと嬉しそうに笑う遥香さんは、本当に心の底からそう思っているようで、そんな遥香さんを充くんが哀しそうな目で見つめ返している。
「充くん、そんな顔しないで。私、十夜の好きな人が凛音ちゃんで良かったって本当に思ってるのよ」
「遥香さん……」
「……ねぇ凛音ちゃん、十夜と私の交際期間を聞いて変だとは思わなかった?」
「変?」
唐突にそう聞かれて、うーん、と考え込む。
けど、馬鹿なあたしがすぐに応えられる訳がなく、結局遥香さんに助けを求めてしまった。
「私と十夜が別れたのは去年の夏なの」
「はぁ……」
それは知ってるけど……。
「私、さっき言ったよね?十夜と別れたのは十夜に好きな人が出来たからだって」
「……っ、どういう事ですか、遥香さん!桐谷さんとの約束を守ったのなら、この人と出会う前に別れるのはおかしいじゃないですか!」
「えっ!?」
どういうこと?
突然遥香さんに噛み付いた充くんに頭が混乱して理解出来ない。
「その言葉のままの意味よ、充くん。十夜は凛音ちゃんを好きになる前に別の人を好きになったの」


