「凛音ちゃん、私ね、あの時凛音ちゃんに言ってなかった事があるの」
「言って、なかった事?」
「うん。この前言わなかった“別れた理由”」
別れた理由……。
「……私ね、十夜のお婆様が亡くなって、改めて付き合って欲しいって言った時、十夜とある約束をしたの」
「……約束?」
「そう。“好きな人が出来たら教えて欲しい。その時は別れるから”っていう約束」
「……っ、なんで!!」
──そんな約束……!
そう投げかけたのはあたしではなく充くんで。
自分からそんな約束をした事が余程信じられなかったのか、掴みかかりそうな勢いで遥香さんに迫った。
そんな充くんを静かに首を振って制した遥香さんは、視線を下げたまま“理由”を口にする。
「今は“家族愛”でも、それを“本物の愛”に変えてみせる」
「遥香さん……」
「その決意があったからその約束をしたの」
「………」
「……充くん、十夜が他の人を好きになったってことは私の愛が十夜の心に届かなかったってことなのよ」
「そんな……っ」
充くんがすかさず否定したけど、遥香さんは首を横に振ってそっと目を閉じた。
「こんなに長い年月傍に居たのに振り向かせられないなんて、十夜に好きな子が出来る以前の問題だと思う。
でも、それでも自分からは十夜を手放す事が出来なかった。だから“別れ”の選択を十夜に押し付けたの」
「遥香さん……」
「最低な女でしょう?もし十夜に好きな子が出来なかったら、私は今でも十夜の彼女だったと思う」


